
「人間は体内でビタミンCを作れないから、野菜や果物を食べなさい」と、一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。では、なぜ私たちは、生命維持に不可欠なビタミンCを自分の体で生成できないのでしょう?そして、実はその仲間として、ペットとしても人気の「モルモット」がいることをご存知でしたか?
この記事では、そんな素朴ながらも奥深い疑問に答えていきます。
- なぜ人間とモルモットはビタミンCを作れないのか?
- 他の多くの動物はどうしているのか?
- その背景にある、驚くべき進化のストーリーとは?
- ビタミンCが不足すると、どうなってしまうのか?
この記事を読み終える頃には、あなたもビタミンCと私たちの体の関係について、きっと誰かに話したくなる知識が身についているはずです。
そもそもビタミンCとは?生命活動に欠かせない重要な栄養素

本題に入る前に、まずはビタミンCがどれほど重要な栄養素なのかを簡単におさらいしましょう。
ビタミンC(化学名: アスコルビン酸)は、私たちの体の中で非常に多くの役割を担っています。
- コラーゲンの生成: 皮膚や血管、骨、軟骨などを構成するタンパク質であるコラーゲンの生成に不可欠です。ビタミンCが不足すると、血管がもろくなったり、肌のハリが失われたりします。
- 強力な抗酸化作用: 体のサビつきの原因となる「活性酸素」から細胞を守る働きがあります。これにより、老化やさまざまな病気の予防に繋がると考えられています。
- 鉄分の吸収促進: 植物性食品に含まれる鉄分は、そのままでは体に吸収されにくい性質がありますが、ビタミンCと一緒に摂ることで吸収率が格段にアップします。
- 免疫機能の維持: 白血球の働きを助け、免疫力を高める効果も期待されています。
このように、ビタミンCは私たちが健康に生きていく上で、決して欠かすことのできないパートナーなのです。
驚きの事実!ほとんどの動物はビタミンCを自ら生成できる
実は、人間やモルモットのようにビタミンCを作れない動物は、全体から見ると少数派です。犬や猫、牛や馬、鳥類や爬虫類の多くは、なんと体内でブドウ糖を原料にしてビタミンCを合成することができます。
彼らは、主に肝臓に存在する特別な「酵素」の働きによって、食事からビタミンCを摂取しなくても、自分で必要な量を作り出せるのです。そのため、犬や猫にみかんを与える必要がないのは、このためです。
【本題】なぜ人とモルモットはビタミンCを生成できないのか?

では、いよいよ本題です。なぜ私たち人間と、そしてモルモットは、この便利な能力を持っていないのでしょうか。
その答えは、私たちの「遺伝子」に隠されています。
原因は「遺伝子の故障」
ビタミンCの合成には、いくつかのステップがあり、それぞれのステップで特定の酵素が必要です。人間やモルモットが作れないのは、その最終段階で必要となる「L-グロノラクトンオキシダーゼ(GULO)」という酵素を作るための遺伝子が、壊れてしまっているからです。
専門的には、この働かなくなった遺伝子を「偽遺伝子(ぎいでんし)」と呼びます。
つまり、私たちは「もともと作れなかった」のではなく、「作る能力を持っていた祖先がいたが、進化の過程でその能力を失ってしまった」というのが正確な答えなのです。設計図(遺伝子)の一部が失われたため、ビタミンCを作る工場(体)が正しく機能しなくなった、というイメージです。
いつ、なぜ壊れたのか?進化のミステリー

さらに興味深いのは、人間とモルモットがこの遺伝子を失ったタイミングは、それぞれ全く別だという点です。
- 人間の祖先(霊長類): 約6,000万年前にGULO遺伝子が機能を失ったと考えられています。
- モルモットの祖先: 約2,000万年前にGULO遺伝子が壊れたと推測されています。
別々の進化の道を歩んできた生物が、結果的に同じような特徴を持つようになることを「収斂進化(しゅうれんしんか)」と呼びます。人間とモルモットのケースは、この収斂進化の非常に面白い一例なのです。
では、なぜ生命維持に重要なビタミンCを作る能力を失っても、私たちの祖先は絶滅せずに生き延びることができたのでしょうか?
これには、当時の「食生活」が大きく関係しているという説が有力です。
GULO遺伝子を失った当時の霊長類やモルモットの祖先は、ビタミンCが豊富な果物や植物を日常的に大量に食べていたと考えられています。常に食事から十分な量のビタミンCを摂取できていたため、わざわざ体内でエネルギーを使って合成する必要がなくなったのです。
むしろ、ビタミンC合成に使っていたエネルギーを他の生命活動(成長や繁殖など)に回す方が、生存競争において有利に働いた可能性すらあります。こうして、GULO遺伝子が壊れた個体が自然淘汰されることなく、子孫を残していった結果、現在の私たち人間やモルモットがいるというわけです。
他にもいる?ビタミンCを作れない仲間たち
人間とモルモット以外にも、この「作る能力を失った」仲間は存在します。
- 真猿類: ヒトのほか、ニホンザル、チンパンジー、ゴリラ、メガネザルなど、ほとんどのサルや類人猿の仲間。
- オオコウモリの一部: 果物を主食とするオオコウモリの仲間。例えば、インドオオコウモリや、日本に生息するクビワオオコウモリなどが知られています。
- スズメ目の鳥類の一部: ペットとしてもお馴染みのブンチョウやジュウシマツ、キンカチョウ、イエスズメなど。
- 魚類の一部: ニジマス、コイ、サケ、ブリ、マダイなど、養殖されている魚の多くが含まれます。
これらの動物たちも、私たちと同様に、進化の過程でそれぞれ独立してGULO遺伝子を失い、食事からビタミンCを摂取する必要があるのです。
ビタミンCが不足するとどうなる?人間とモルモットの共通の悩み

体内でビタミンCを作れないということは、食事からの摂取が滞ると、深刻な欠乏症に陥るリスクがあるということです。この欠乏症は「壊血病(かいけつびょう)」と呼ばれ、人間とモルモットで非常によく似た症状が現れます。
人間の場合:「壊血病」
かつて、新鮮な野菜や果物を積むことができなかった大航海時代の船乗りたちを苦しめた病気として知られています。
- 歯茎からの出血、歯がぐらつく
- 極度の倦怠感、疲労感
- 皮膚の下で内出血が起こり、あざができやすくなる
- 関節の痛み
- 傷が治りにくい
現代の日本では深刻な壊血病になることは稀ですが、偏った食生活や極端なダイエットなどにより、潜在的なビタミンC不足に陥っているケースは少なくありません。
モルモットの場合も同様
ペットとしてモルモットを飼育している方は、特に注意が必要です。モルモットもビタミンCが不足すると、人間と同じように壊血病を発症します。
- 食欲不振、体重減少
- 毛づやが悪くなる、脱毛
- 関節が腫れて痛がり、歩き方がおかしくなる
- 歯茎からの出血
モルモットの健康を守るためには、ビタミンCが添加された専用のフードを与えるだけでなく、ビタミンCが豊富な野菜(ピーマン、パセリ、ブロッコリーなど)を毎日与えることが非常に重要です。
私たちはどうすればいい?賢いビタミンCの摂取方法
人間もモルモットも、ビタミンCを作れない運命共同体です。健康を維持するためには、意識的に食事から摂取する必要があります。
- 基本は食事から: パプリカ、ブロッコリー、キウイフルーツ、柑橘類、イチゴ、じゃがいも、さつまいもなど、ビタミンCは多くの野菜や果物に含まれています。バランスの良い食事を心がけることが最も大切です。
- サプリメントの活用: 食事で十分に摂取できない場合は、サプリメントで補うのも一つの方法です。ただし、過剰摂取は体に負担をかける可能性もあるため、適切な量を守りましょう。
- モルモットの飼い主さんへ: 必ず「モルモット専用」で、ビタミンCが強化されたペレットを選びましょう。そして、新鮮な野菜を毎日のおやつとして与えることを忘れないでください。
【まとめ】失われた能力は、進化の証
今回は、「なぜ人間とモルモットはビタミンCを作れないのか?」という疑問を深掘りしてきました。
- 原因は、ビタミンC合成に必要な酵素(GULO)を作る遺伝子が壊れてしまったから。
- これは「退化」ではなく、ビタミンC豊富な食生活への「適応進化」の結果と考えられる。
- 人間とモルモットは、それぞれ別の時代に同じ能力を失った「収斂進化」の例である。
- 作れないからこそ、意識的に食事から摂取することが、私たちとモルモットの健康の鍵を握っている。
一見すると「欠点」のように思えるこの特性も、実は私たちの祖先が厳しい自然界を生き抜いてきた証なのです。進化の壮大な物語に思いを馳せながら、今日の食事でビタミンCを意識してみてはいかがでしょうか。



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